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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)239号 判決

控訴人(原告) 鈴木功

被控訴人(被告) 吉川町長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五二年一二月一日控訴人に対してした懲戒免職処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。」との判決

二  被控訴人

「本件控訴を棄却する。」との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人は、埼玉県葛飾郡吉川町(以下「吉川町」という。)に勤務する地方公務員であり、昭和五〇年一二月当時、同町建設課長兼区画整備事務所長として、同町の施行する道路、橋梁等の新設、維持等の工事の設計及び監督に関する事務並びに同町の施行する土地区画整理事業に伴う街路、下水路、公園等の新設工事の設計、施行、管理等に関する事務を掌理しており、また、昭和五一年一一月からは、同町区画整理課長として、右と同一の事務を担当していた。

2  被控訴人は、昭和五二年一二月一日付で、控訴人に対し、控訴人が業者から現金を受け取つた容疑で同年一一月二九日に逮捕、留置されたことを理由に、懲戒免職処分(以下「本件処分」という。)を行つた。そこで、控訴人は、同年一二月一三日、吉川町公平委員会に本件処分の取消しを求めて不服申立をしたが、同委員会は、昭和五三年七月二四日、本件処分を承認する旨の裁決をした。

3  しかしながら、本件処分は、後記五において主張するとおり、手続的にみても違法なものであり、また、その実体面においても裁量権を濫用してなされた違法なものである。

4  よつて、控訴人は、被控訴人に対し、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認める。

三  本件処分の理由等に関する被控訴人の主張

1  控訴人は、「昭和五〇年一二月下旬ころ、請負工事業者である岡田土木有限会社の代表取締役である岡田義男(以下「岡田」という。)から、控訴人の自宅において、当時控訴人が吉川町の建設課長等として担当していた職務に関し、便宜ある取り計らいを受けたいとの依頼の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金三〇万円及び電気毛布一枚(時価約七、〇〇〇円相当)を収受して、収賄した。」との被疑事実で、昭和五二年一一月二九日に逮捕、留置された。

2  被控訴人は、翌三〇日、捜査機関に逮捕事実の内容等を問い合わせ、その結果右のような逮捕事実の内容を知るとともに、右逮捕当日実施された家宅捜索の結果、控訴人自宅から右の現金三〇万円と電気毛布が発見され、押収された事実を確認し、更に担当捜査官に被控訴人の担当職員が面接して事情調査を行つた結果、控訴人が右の収賄行為を行つたとの確信を得るに至り、控訴人の右行為は、地方公務員法三〇条の服務の根本基準及び同法三三条の信用失墜行為の禁止規定に触れるため、同法二九条一項一号の懲戒事由に該当するとともに、また、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があつた場合として同法二九条一項三号の懲戒事由にも該当するものと考え、控訴人の右収賄行為を理由として、同年一二月一日付けで、控訴人に対して本件処分を行つたものである。

3  仮に本件処分の時点において控訴人に交付された処分説明書に処分理由として記載された事実が、控訴人が収賄の容疑で昭和五二年一一月二九日に逮捕、留置されたとの事実に限られているため、その時点における処分の理由が右の事実に限られるとしても、処分権者はその処分の取消しが求められている行政訴訟において、その処分当時存在した全ての事実を処分理由として追加して主張することができるから、被控訴人は、控訴人の右収賄行為自体が地方公務員法二九条一項一号及び三号に該当することを本件処分の理由に追加する。

四  本件処分の理由等に関する被控訴人の主張に対する控訴人の認否

1  被控訴人の主張1の事実は認める。

2  同2の事実中、家宅捜索の結果控訴人の自宅から現金三〇万円と電気毛布が発見され、押収されたことは認める。本件処分が控訴人の収賄行為を理由としてなされたとの点は否認する。本件処分の理由は、処分説明書にも記載されているとおり、控訴人が収賄容疑で逮捕、留置されたとの事実に限られていたものである。その余の事実は知らない。

なお、控訴人は、岡田から、電気毛布はともかく、現金三〇万円を収賄の意思で受領したことはなく、約二年後の昭和五二年一一月二九日の控訴人宅の家宅捜索の結果電気毛布入りの紙箱が発見された際、始めてその中に現金三〇万円が入つていたことを知つたのである。すなわち、右の現金三〇万円は、紙箱をあけても直ちには発見できないような状況で入つていたため、右電気毛布の入つた紙箱を岡田から受け取つた際、控訴人の方では右現金の存在には気付かなかつたのである。控訴人は、右現金三〇万円の収賄の容疑については、刑事事件の取調べにおいても終始これを否認しており、現にその後右事件は不起訴処分となつて、控訴人の右容疑は否定されている。

3  同3の主張は争う。前記のとおり、本件処分の理由は、控訴人が収賄容疑で逮捕、留置されたとの事実に限られていたものであり、本件行政訴訟の段階になつて、被控訴人の主張するような控訴人の収賄行為自体をその処分の理由として追加して主張することは、許されないものというべきである。

五  本件処分の違法事由に関する控訴人の主張

1  本件処分は、前記のとおり、控訴人が収賄容疑で逮捕、留置されたことを理由としてなされたものであるが、職員が刑事事件に関して起訴された場合であつても、まず休職処分とし、懲戒事由の存否について刑事事件の判決が出されるのを待つて、これを決定するのが法律上の建前とされていることからすると、未だ起訴の段階にも至つていない控訴人に対して、単に逮捕、留置がなされたことのみを理由としてなされた本件処分は、この点において手続的にみて違法な処分というべきである。

2  前記のとおり、控訴人は、岡田から、電気毛布はともかく現金三〇万円を収賄した事実はないのであり、そうだとすると、本件処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用してなされた違法なものというべきである。

六  本件処分の違法事由に関する控訴人の主張に対する被控訴人の認否等

1  控訴人の主張1の事実は否認する。控訴人に対する本件処分は、前記のとおり、単に控訴人が収賄容疑で逮捕、留置されたことのみを理由とするものではなく、控訴人の収賄行為自体を理由とするものであり、また、懲戒事由の有無については、処分権者自らが独自の方法でこれを確認することができるのであり、本件においては、前記のとおり、控訴人の逮捕後、捜査機関に容疑事実の有無を確認する等の手続をとつているのであるから、本件処分に控訴人の主張するような違法事由はない。

2  同2の事実は否認する。本件の当時、吉川町役場の区画整理課においては、控訴人の部下職員による一連の収賄事件が発覚し、何名かの職員が逮捕されるという事態が生じており、控訴人の本件事件も新聞、テレビ等で大々的に報道され、町民の行政への大きな不信感を招く結果となり、また、控訴人については、本件以外にも、岡田から、自宅の庭土を改良するための土の贈与を受ける等の行為もみられたのであるから、これらの事情をも勘案すると、本件処分については、何ら載量権の濫用があつたものとはいえない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  控訴人が吉川町に勤務する職員であつたところ、昭和五二年一二月一日付で、被控訴人から懲戒免職処分を受け、これを不服として吉川町公平委員会に不服申立をしたが、同委員会は右懲戒免職処分を承認する旨の裁決をしたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、右懲戒免職処分の理由について考えるに、控訴人が、昭和五〇年一二月下旬ころ岡田から控訴人が吉川町の建設課長等として担当していた職務に関して現金三〇万円及び電気毛布一枚(時価約七、〇〇〇円相当)を収賄したとの被疑事実で、昭和五二年一一月二九日に逮捕、留置されたことは、当事者間に争いがないところ、原審における被控訴人及び控訴人の各本人尋問の結果によれば、被控訴人が本件処分を行うに当つては、控訴人が右被疑事実どおりの収賄行為を行つたものと考え、むしろその収賄行為自体を理由として本件処分を行う意思であつたこと、また処分を受けた控訴人の方でも、処分権者たる被控訴人の意図が右のようなものであることを承知していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

もつとも、本件処分の理由としては、控訴人が右現金の収賄の容疑で逮捕、留置されたことの事実しか掲げられていないことは、当事者間に争いのないところであり、公務員に対する懲戒処分の取消訴訟においては、処分権者は、処分理由説明書に記載されていない事由は、処分の理由として主張することが許されないとの考え方に立つときは、被控訴人は、本訴において控訴人の右収賄行為自体を本件処分の理由として主張することはできないとする余地が生ずる。しかしながら、仮に右のような考え方を前提としても、少くとも、社会通念からして処分理由説明書に記載された事実と基本的に同一の事実であると認められる事実であつて、処分の当時に処分権者がその存在を認識し、処分の理由とする意思を有していた事実については、それが処分理由説明書に記載されているとはいえない場合であつても、処分権者が、処分の取消訴訟の段階で、これを処分の理由として主張することは当然許されるものというべきである。そして、本件の場合、控訴人が前記のような収賄容疑で逮捕されたとの事実と右収賄の事実が社会通念上基本的に同一の事実と解されることは明らかであり、また、被控訴人が右被控訴人の収賄行為自体を本件処分の理由とする意思を有していたと認められることは前記認定のとおりであるから、本件においては、被控訴人は、控訴人の右収賄行為自体を本件処分の理由として主張することが許されるものというべきである。

三  すすんで、控訴人が右収賄行為を行つたとの被控訴人の認定判断が、十分に合理的な根拠に基づく適法なものといえるか否かについて判断するに、原本の存在及びその成立について争いのない甲第二八号証、いずれも成立に争いのない甲第三〇号証、乙第一号証及び同第二号証の一ないし六並びに原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人が控訴人に対して本件処分を行うに至つた経緯は、おおむね次のようなものであつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

1  昭和五二年一〇月ころ、吉川町において、同町の区画整理課の現職員や元職員三名が相次いで公金横領や収賄の容疑で逮捕されるに至り、控訴人もこれらの職員の直属の上司としての監督責任を問われて、同年一〇月三一日付で懲戒停職二〇日の処分を受けるに至つた。

2  被控訴人は、右職員らの事件が発覚した際、控訴人に対しても問題とされるような不正行為がないかを質したところ、控訴人は、自分は潔白であり、そのような不正行為は一切ない旨を答えていた。ところが、同年一一月二九日になつて、控訴人は警察へ出頭を求められ、同日夕刻、「昭和五〇年一二月下旬ころ、土木工事の請負業者岡田から、その職務に関して、現金三〇万円及び電気毛布一枚(時価約七、〇〇〇円相当)を収賄した。」との容疑で逮捕されるに至り、右事件については、翌朝の各新聞等が、吉川町区画整理課の課ぐるみの汚職事件として大々的に報道するところとなつた。

3  控訴人は、右一一月二九日の朝、警察に出頭する前に、被控訴人に対し、警察から出頭を求められた旨を伝えるとともに、辞表提出の可否について伺いをたてたが、被控訴人から潔白であるのなら辞表提出の要はないといわれ、その時点では辞表の提出をしなかつた。しかし、同日昼ごろ、控訴人は警察署から吉川町総務課の職員を通じて、被控訴人あてにその前日の一一月二八日付の退職願いを提出してきた。

4  右一一月二九日の夕刻、控訴人宅の家宅捜索が行われた結果、電気毛布と現金三〇万円の入つた紙箱が発見され、この事実は警察から被控訴人にも知らされた。翌三〇日、被控訴人は、総務課長を警察署に赴かせて警察署次長から事情を聴取させ、警察が被控訴人宅から現金が発見されたこと等から収賄の容疑が裏付けられたとして控訴人を逮捕したものであるとの事実を確認した。同日夕刻、控訴人は右収賄の容疑で留置されるに至つた。

5  被控訴人は、右のような経過からして、控訴人が収賄行為をしたことは間違いないと考えるに至り、埼玉県地方課にも問い合わせをしたうえで、控訴人を懲戒免職にすることと決定し、翌一二月一日付で本件処分を行つた。以上のような経緯からすると、被控訴人のした控訴人が右の収賄行為を行つたとの認定判断は、十分な根拠に基づく合理的なものであつたということができ、その認定判断の過程に懲戒処分権者として法律上要求される義務に違反した違法な点は見当らないものというべきである。

四  これに対し、控訴人は、右容疑事実のうち岡田から電気毛布の交付を受けた事実は認めているものの、右電気毛布の入つた紙箱の中に現金三〇万円が入つていることには、全く気がつかなかつたから、右の現金三〇万円については収賄は成立しないと主張しており、原本の存在及びその成立について争いのない乙第六号証並びに原審及び当審(第一回及び第二回)における各控訴人本人尋問の結果が右控訴人の主張にそうような内容のものとなつているのに加えて、更に前記当審における控訴人本人尋問において、控訴人は、右の三〇万円の入つたのし袋は岡田が右紙箱を車で控訴人宅に運搬してくる途中で箱の中の電気毛布とシーツの間に入りこんでしまつていたため、紙箱を開けてみただけではその存在に気がつかなかつたものと思われるとの供述を行つている。そして、前掲の甲第三〇号証によつて、右現金入りの紙箱が岡田から控訴人に交付された日から二年近くもの期間を経た後に行われた家宅捜索の結果右の現金の入つたのし袋が依然として電気毛布を入れた右紙箱の中にあるのが発見された事実が認められることからすると、控訴人の前記供述には一見信用性があるかに見えないでもない。

しかしながら、原本の存在及びその成立について争いのない乙第五号証、並びに証人岡田義男の原審及び当審における各供述によれば、岡田としては、吉川町の施行する土木工事の受注先の決定について大きな権限を持つており、しかも当時特定の業者との関係等についてとかくの噂のあつた控訴人に対し、自らが代表取締役を務める岡田土木有限会社を右土木工事の受注先として指定してもらうために、右現金等の供与を行おうと考えたというのであつて、電気毛布を入れた右紙箱の一番上にすぐ目につくような形で右現金入りののし袋を入れて、これを控訴人宅に届けたものであり、しかも、右ののし袋には、その下に半紙をつけてその上から水引きをかけ、これを電気毛布の上に置いておいたとの事実が認められるのである。これらの事実からすると、右電気毛布入りの紙箱を受け取つた控訴人の方で右現金入りののし袋には全く気がつかなかつたとする前記控訴人の供述は甚だ不自然なものといわざるを得ず、むしろ、前掲甲第三〇号証により、右家宅捜索の結果紙箱の中から発見されたのし袋には、右岡田がこれを紙箱の中に入れた時の状態とは違い、半紙も水引も付いていなかつたことが認められることからすると、右の家宅捜索の時点で現金入りののし袋が右紙箱の中に残されていたのは、控訴人の方でその後収賄の罪を逃れるために一種の工作を行つたことによるものではないかとの疑いが濃いものといわなければならない。なお、前掲の甲第三〇号証並びにいずれも成立に争いのない同第三一号証、同三二号証及び同第三三号証の一、二によれば、右家宅捜索の際に発見された一万円札三〇枚は、いずれも前記の岡田の控訴人に対する贈賄行為があつたとされる昭和五〇年一二月より前に印刷され日本銀行に引き取られている紙幣であることが認められるが、このような事実のみから右の工作の疑いを否定することはできないものというべきである。

のみならず、本件処分の適否が争点となつている本件訴訟では、控訴人が右現金三〇万円を現実に収賄した事実があるか否かが問題となるのではなく、前記認定のような事実関係に基づいて被控訴人のした控訴人が右現金三〇万円の収賄行為を行つたとの認定判断が、懲戒権者として遵守すべき法令上の義務に照らして適法といえるか否かの点のみが問題となるにすぎず、仮りに控訴人が右現金の収賄を行つていなかつたとしても、諸般の情況に照らして懲戒権者たる被控訴人のした右収賄行為が認められるとの認定判断に十分に合理的な根拠が存在していると考えられる場合には、なお被控訴人のした右認定判断を違法とすることはできないのである。そして、前記三において認定したような事実関係からすれば、右のような控訴人の本件収賄行為の成立を裏付けるに足りるような事実が確認されている以上、当時被控訴人に控訴人の主張するような希有の事態が存在するかも知れないことまでを慮つて懲戒権の発動を差し控えるべき義務があつたものとすることは到底できないものというべきであるから、いずれにしても被控訴人のした控訴人が右収賄行為を行つたとする認定判断には、何ら違法な点はなかつたものと考えられる。

更に、右のような控訴人の収賄行為が、地方公務員法三〇条の服務の根本基準及び同法三三条の信用失墜行為の禁止規定に触れ、同法二九条一項一号の懲戒事由に該当するとともに、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があつた場合として同法二九条一項三号の懲戒事由にも該当するとした被控訴人の判断にも、何らの過誤も認められないことは明らかである。

他に右の各認定を覆すに足りるような証拠は存在しない。

五  また、控訴人は、職員が刑事事件に関して起訴された場合でも、まず休職処分とし、刑事事件の判決が出されるのを待つて懲戒事由の存否を決定するのが法律上の建前ないし慣行とされていることからして、未だ起訴の段階にも至つていない控訴人に対してなされた本件処分は、手続的にみて違法であると主張するが、地方公務員法上いわゆる起訴休職の制度が設けられているからといつて、刑事事件で起訴された者に対して懲戒処分を行う場合に、まず右起訴休職の措置をとるべきことが法律上要求されているものとすることはできないし、本件においては、被控訴人の方で控訴人について前記懲戒事由の存在することを根拠づける事実を確認したうえで、本件処分を行つたものと認められることは前記認定のとおりであり、すでに被控訴人からみれば右のような決定的な根拠事実が確認された上、当時控訴人が逮捕、留置中であつて、直接その弁解等を聴取することは困難な状況にあつたのであるから、前記逮捕の日から三日後の一二月一日の時点で、それ以上の事実調査等を行うことなく、直ちに本件処分を行うことに踏み切つた点についても、とくにこれを違法とまですることはできないものというべきである。したがつて、控訴人の右主張は失当である。

更に、控訴人は本件処分は懲戒権を濫用してなされたものであるから違法であると主張するが、前記認定のとおりの本件処分に至るまでの経緯、とくに本件処分の理由が控訴人の職務に関する現金三〇万円等の収賄という涜職行為であること、当時吉川町役場の区画整理課においては、控訴人の部下職員による一連の不正事件が次々と発覚していた時期でもあり、控訴人の本件事件も新聞等で大々的に報道され、町民の町政に対する大きな不信感を招く原因となつたことが推認できることなどの事情からすると、被控訴人が控訴人に対する懲戒処分として懲戒免職処分を選択したことは、社会通念に照らして何ら相当性を欠くものでなく、本件処分に裁量権の逸脱、濫用があつたものとはいえないことは明らかであるから、控訴人の右の主張も理由がない。

六  以上の次第であつて、被控訴人のした本件処分は適法であり、その取消を求める控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、その取消しを求める本件控訴は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島恒 塩谷雄 涌井紀夫)

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